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事件など起こらなかった

自分用メモ投稿〜
だんがんろんぱ十苗ちゃんです。






超高校級の野球選手とは、人より野球に秀でている人。水泳選手は誰よりも早く泳げる人。
超高校級の風紀委員は、他の誰よりも法を使える人。
超高校級の御曹司は、誰よりも人を使える人なのだと思う。
出会う人物の適材を知っていて、それを自分に都合の良いように動かせるちから。十神クンが、葉隠クンや腐川さんのもうひとつの人格を良いように扱っているのを見るとそう思える。

十神クンは僕の使い方を知っている。

画面に表示された文章。
今日本に来ていることと、滞在ホテルの部屋番号と、暇なら会いに来いと機械の文字は語っていた。僕のスケジュールなどとっくに把握しているのだろう。課題提出後でバイトのシフトも入っていない日だった。
しばらく画面を睨んで、二時間程間をおいてから返信する。断るという選択肢はないのだけれど、十神クンに会いたい訳じゃない。
『八時過ぎに行けると思う。迎えはいらないから』
素っ気なく其だけ返信した。
僕は今、どんな表情をしているんだろう。
夜まで待たなくとも、今僕は暇なのに。


三年生の時に十神クンに抱かれた。性的なものじゃなくてじゃれあいみたいな、楽しくて暖かくて、本当に仲のよい友達ならあり得る距離だと思った。
もうすぐ卒業で……あの十神クンとこんなに打ち解けることが出来たことが誇らしかった。


大学からの帰り道、十神クンに拾われた。
表参道を歩いてたら横に十神クンの車が停まって、呼び止められた。道を走らせていたらお前のアンテナが見えたと言われた。卒業してから初めて会った。随分と久しく感じたけれど、少し灰掛かった金糸の髪も氷色の瞳も何も変わってなくて暖かい時間に帰れたような気がしたんだ。
食事に誘われて車に乗せてもらった。ご飯を食べにどこか高級な個室のある店に行って。
そのあと十神クンに抱かれた。
僕は……抵抗した筈だ。十神クンに力で捩じ伏せられた。
思い出が入ったキラキラとした心の宝石箱は引っくり返されて中身が飛び散った。
自分の脚じゃないみたいに上手く歩けなくて頭が割れるみたいに痛かった。壁とか床とかに抑えられて事に及んで身体は擦り傷だらけでひりひりと痛かった。
帰り道何を考えたんだっけ?

汚れてしまって舞園さんに申し訳ないと考えたのだと思う。




「…………ーっ。あー、やだな。でも此やっといた方が楽だよな……」
シャワーを浴びて、シャワーのヘッドを外してお湯を細く線のように流しながら苦悶する。
彼に良いように扱われる為の排泄行為は考え事が多くなっていけない。暖かい筈のシャワールームなのに背筋がぞくぞくとする。

希望ヶ峰学園の卒業の日に舞園さんから告白された。
ずっと傍で私を支えて下さい、って言われて頷かない男はいないと思った。
舞園さんは超高校級のアイドルだ。だから二人きりで通りを歩く事ができないお付き合いだったけれど、彼女のファンに申し訳ないけれど、舞園さんは僕の彼女になった。

舞園さんには心配をかけたくなくて、十神クンと会ったことは話さなかった。

舞園さんのグループに大きな仕事が入って、そのときはまだ十神クンが回した物だと気付かなかった。
舞園さんの事務所の人に呼ばれて、遂に来たか!どんなに攻撃されても僕は舞園さんが好きだ!二人のお付き合いが認めてもらえなくとも僕なりに誠実な対応をしようと思って指定された場所に行った。
居たのは強面の事務所の人ではなく十神クンだった。
僕は混乱して、逃げ場もなくて。十神クンは多分格闘技か何かの心得があるのだろう、僕では彼に勝てなかった。
彼に酷いことをされた。
今度は舞園さんのグループのメンバーのあやかちゃんに映画の主役のオファーが来た。映画のスポンサーに十神クンの会社の名前があった。
映画の主役を勝ち得たのは彼女の実力だ、映画を観てこの役は彼女しかいなかったからだと自分に説明をした。
また舞園さんのマネージャーから連絡が来て十神クンに会った。従いたくなかったけれど、事務所には舞園さんとの交際を黙認してもらっている。そのときの僕は逆らう気力がなかった。
「もっと上手に仕事手配しろよ……
舞園さんに変な噂が起ったらどうするんだよ」
確認したくて十神クンに噛み付くように言ってやると、
「上手くやっているさ。あの役は舞園に回せば映画は駄作になるが、彼女なら適任だ。彼女が持ち上げられれば舞園も持ち上がる。
誰が噂するんだ?マスコミか?
安心しろ、マスコミは【十神】に言われた通りの記事を書く」
あっさりと十神クンは自分の介入を認めた。
舞園さんなら、十神クンの根回しがなくたって自分の力で輝く仕事を掴めるだろう。けれど、十神クンは舞園さんを潰す力を持っている。舞園さんだけじゃない、舞園さんの事務所も舞園さんの仲間達の人生も持ち上げることも突き落とすこともできる。
僕は知らない、関係ないって叫びたかった。

「……他人の、人生を握らされたのなんて……初めてだ……、重いね」
ぽつりと、叫んだ言葉はそれで。
十神クンは労るかの様にやさしく髪を撫でてくれた。
十神クンは苗木誠の取り扱い説明書を持っている。
その夜、僕は抵抗せずに十神クンに抱かれた。

舞園さんがどこまで知っているのかは知らない。
舞園さんが僕のされていることを知ったらそんなことをする必要なんてない!私は大丈夫です!と言ってくれるかもしれない。十神クンから僕を守ってくれるかもしれない。
……ただ一つの可能性、十神クンに僕を宛がったのば誰なのかを知りたくなくて考えたくなくて、僕は、舞園さんに何も確認していない。



でも結局。

十神クンが僕なんか相手にする変質者だったからこうなったんだ。

バイクで行こうかと思ったけれど止めた。電車で向かって、二、三時間過ごしたら足が無くなるのを理由に帰ってしまおう。
十神クンも何故僕なんか構うんだろうか。
彼ならば可愛い彼女に不自由しないだろうし、男性を好きな性癖であっても、恋人をつくることもその日だけの関係でも相手に事欠かないだろうに。

僕のことを好きだとは考えられない。

僕なら、好きな人に酷いことはできない。

僕と舞園さんが其処に居て、僕の取扱説明書が一番読み取り易かっただけだろう。
家を出てとぼとぼ歩いて、伝えられたホテルに着く。値段が張るホテルなのは知っているが、外国人旅行客はラフな服装が多くロビーは雑然としていた。私服の僕でも呼び止められることは無い。
そのまま三十八階へ。着くとロビーとは変わって人の姿は無い。この階には一つしか部屋が無いらしい。ドアの横のベルを押す。
リンゴーン…
音が鳴り暫く待つと、スーツの日本人男性が扉を開けた。知らない人だ。
「苗木誠です。白夜クン居ますか?」
言うと無言で部屋の中へ入れてくれた。そのままその人は部屋から出ていく。扉はオートロックだろう。彼はもうこの部屋に入ってこない。
進むとホテルの部屋なのに、社長室みたいになっていて中央に大きなデスクがあった。パソコンとにらめっこしている十神クンが座っている。
横にバーカウンターと、デスクを覗けない位置に応接のソファーがあって、僕はそこに腰掛けた。
フイ、十神クンが顔を上げる。眼鏡を外し別な眼鏡を掛けた。パソコン用から普段使い用に替えたのだろう。
「元気そうだね」
僕を呼ぶくらいだもんね。
「まあな、……何を飲む?
食事が未だなら、持ってこさせる」
十神クンは立ち上がりバーカウンターで自ずから二つのグラスにシャンパンを注ぐ。
十神クンの好みじゃない甘い味のアルコールだ。そんな気遣い望んでいない。

「いらない。十神クンとはセックス以外したくない」
二人きりの部屋に思っていたよりも声は響いた。
ぎりっ……
十神クンが葉を噛み締めた様な気がした。

ばしゃ!

「……っ!……眼、痛っっ!」
眼球に焼ける様な痛みが走る。シャンパンを投げ掛けられたのだと香りで理解した。
襟首を捕まれる。
十神クンはソファーの上に乱暴に膝を乗せ、襟首を掴んだまま唇を重ねる。口腔内を知らない生き物が這っていく感触。
「っ、はぁっ……」
「ん……」
舌を絡めて、吸われて、息が上がる。
やっと唇を離してもらうと、唾液でべたべたになっていた。
「はぁっ、十……神クン、眼いたい」
未だ眼が開けられない。
「舐めて」
それが一番手早いと思って言うと、十神クンが息を詰めるのが判った。
ゆっくりと、思いの外やさしく舌が触れる。
……ちゅ、……ちゅっ。
何回も舐められキスをされる。人間の五感の中で一番敏感なのは視覚だろう。そこを十神クンは痛みの無いように丹念に舐めた。
パチリと、違和感無く眼を開けることが出来た。
「十神クン、ありがと……」
何度か瞬きすると、涙のしずくがぱたた……と散る。

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