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 白いシーツはこの寝台の主が寝乱れていた跡をやわらかく残したままだった。
 新しいものを、と言いかけた唇をキスで塞いで、イギリスの身体を横たえる。彼の香りを残したリネンはアメリカが運んできた雨と、そしてアメリカの匂いを吸ってくれるだろう。

 カーテン越しの弱い午前中の光はシーツの上に散ったくすんだ金髪を照らすには足りない。外が雨ならば尚更だ。だが、薄暗い部屋の中でイギリスの白い膚をひっそりと浮き上がらせるには、このくらいで十分だった。

 水の底にいるみたいだ。そうイギリスは呟いた。

「水の底?」

「そう……、あっ……!」

 彼の言う通り、実際この部屋は細い雨の檻に囲まれているようだった。グラスを上る炭酸水の音に似た霧雨の音に包まれて、イギリスは湿った吐息をゆるやかに吐き出す。アメリカを受け入れるための粘膜も潤滑剤で熱く潤って中の指を濡らした。

「ぁ……ッ」

 指の腹で内壁をじっとりと撫でるのに合わせて眉を寄せたイギリスは形の良い小さな頭を振ってシーツに擦りつける。指の動きを止めないまま昂りをイギリスのものに押し付ければ、びくり、と緑の目が驚愕に瞠られた。
 辛くない?と聞くと掠れた声で「あつい」と返ってきた。

「す、げえあつくて……死んじまいそう」

 汗なのか生理的な涙なのか、濡れた睫毛を鬱陶しそうに拭うと、イギリスはその手をアメリカの性器へ伸ばす。この世で最もアメリカに多く触れた、誰よりも愛しい手に直截な愛撫を施されて、アメリカも笑いながら余裕の無い荒い息を吐いた。

「うん……俺も君が欲しくて、もう死にそう」

 肩先にキスを落としてずるり、と指を引き抜くとイギリスは綺麗に顎を仰け反らせた。血管の透けて見えそうな腿の内側を抱え上げると、顕わになった白い喉仏がこくりと動く。その敏感な箇所に唇を寄せて、アメリカはイギリスの中へ熱を沈めた。

「あ…!あ……っぅ、は、あぁ……!あ、メリ、カ……んぅ、ゆっくり………」

 イギリスの声帯が切なく震えるたびに首筋に唾液が伝う。先端が粘膜に食まれるように包まれると、アメリカも喉の奥から呻きを漏らした。

「イギリス……っ」

「あっ、あう……」

 唾液を舐め取って、唇の端にも触れる。一際大きく喘いで息を吸い込んだイギリスの胸が苦しげに上下した。薄い皮膚の下、胸郭の形を掌でなぞり、そのまま腰を掴んで結合を更に深くする。きつくて柔らかいそこは少しずつ、だがイギリスの望みと意思をもって、アメリカの熱い屹立を呑み込んでいく。込み上げるものに耐えかねて身を捩じらせたイギリスの背中の下で、たぐまったシーツが情交の淫らな陰影を描いた。

「あっ……あっ、もう……!」

 行儀の良い、癖の悪い足がたまらずに空を蹴ったとき、アメリカはイギリスの最も深い部分を許された。
 陸に打ち上げられた魚のようにびくびくと震える腰を撫でれば緊張に強張った爪先がひくん、と揺れる。シーツを握りしめていた指がぎこちなく彷徨って、やがて縋るようにアメリカの膝に這わされた。

 切なげに眉根を寄せてせわしない呼吸を繰り返す唇の、その動きに合わせてアメリカを食んだ部分が吸いつくように熱を愛撫する。すぐさま揺すり上げたい衝動を歯を喰いしばって堪えて、アメリカはイギリスの唇の端に、そして汗に濡れた額にキスをした。

「イギ、リス……平気かい?」

 ―――タッ、と音をたてて、アメリカの顎を伝った汗が薄い胸に落ちた。それにさえ反応するイギリスは、瞼を震わせながら持ち上げると、「お前、汗でずぶ濡れじゃねえか」と可笑しそうに笑った。

「はっ――――……、こんなに濡れちゃ、雨がどうとか、ねえな」

 額に張り付いた前髪を梳き揚げてくれた指を捉まえて、アメリカはそのまま目を閉じて頬を擦り寄せる。イギリスと自分の呼気、そして外の雨の音だけにほんの一瞬耳を満たされて、幸福な気持ちで瞳を開けた。

「……まるで水の底にいるみたいなんだろ?」

 さっきイギリスが呟いた言葉を繰り返してやると、アメリカの頬に沿わせたイギリスの指先が空色の眦にそっと触れる。くすぐったくて笑うと「閉じるなよ」と彼も笑った。

「水の中から空を見上げるとさ、……水面が、光に波打ってるだろ……?」

「うん―――?」

「いまのお前の目、それに、似てる」

 昼間なのに薄暗い、雨に包まれた空間で。それでも僅かに差し込む外の光を受けたアメリカの空色の瞳を見て、イギリスは水の底にいるようだと言ったのか。
 イギリスは愛しげに目を細めると、溺れる者が救いを求めるように二本の腕をするりと伸ばしてくる。アメリカも水中から掬い上げるように痩躯に腕を回すと、繋がり合ったままイギリスを膝の上へと引き揚げた。

「っあ、うぅ―――…ンっ」

 体制が変わったことでより深くなった結合に悶える首筋に跡を刻んで、アメリカはしっとりと汗ばんだイギリスの背中に両の掌を這わせる。玄関で無理矢理求めた時とは違い、自分と同じように発熱している膚の体温が嬉しかった。
 若く逞しい腕に捉われながらイギリスも笑った。アメリカの襟足の髪をくしゃりと掴んで抱き寄せる。どちらからともなく、ゆらりと腰を揺らめかせた。穏やかに、だけど貪欲に。

「うっ、ぅ……ア、あぁっ―――ん、ぅ……!」

 涙の交じるあえかな声が、次第に本当に溺れているように切羽詰まった響きに変わる。酸素を与えるように合わせた唇越し、白い頬をすべる水滴を指の腹で拭った。垣間見えた緑の瞳に、一瞬、炭酸の中で踊るガラス玉の残像が過る。だが、どんな物も代わりにはならないのだと餓えるほどに知りつくしているアメリカは、その唯一の瞳の持ち主の名を熱に浮かされたように呼び続けると、あとは最後の瞬間までイギリスを揺さぶり続けた。イギリスは逃げられない快楽に悲鳴のような声を上げたが、アメリカに求められるすべての欲を与え、そして若い男が与える直情的な熱のすべてをその身で享受した。

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