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自分用メモ投稿
十苗ちゃんにょたです。






希望ヶ峰学園正門を潜り抜けアスファルトの道を進む。明日は小テストがある為、耳で憶える英語音読教材を聞いていたので、反応が遅れてしまった。
曲がり角の死角から、車が飛び出し、苗木の右横で急停車する。
左助手席のドアは自動で開いた。運転席の人物は予めシートベルトを外していたのだろう。ドアの開閉と同時に運転席から身を乗り出して苗木の肩を掴み車内へ引きずり込む。
「――――っ!」
そのままドアは閉まり、車は車外へ飛び降りることを許さない速度で出発した。


誘拐!


運転席の女性はさらりとした色素の薄い髪を分けて耳に携帯電話をあてる。
「苗木誠は預かったわ。
返して欲しければ、hotelジャバウォック、四階開拓の間までいらっしゃい」
『―――!――!――――!』
ピッ。
女性は黒手袋の指を滑らせ、用件のみ口走り通話を終了する。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、
心臓の音が煩い。
さあっと、血の気が引いた。
「……僕んち、お金なんてありません!」
「面白い言い分ね。貴方の身の安全の為に、億単位のお金を用立てる恋人がいるでしょうに」
黒いスーツの女性はハンドルを切りながら、片手でシートベルトを締める。鼻筋が通った綺麗な横顔。歳は十神と同じくらいだろうか。
(この人、僕と十神クンがお付き合いしてることを知ってるんだ!)
「無理です!十神クン僕のこと見捨てます!
今は面白がって相手にしてるだけです!」
苗木の言葉に女性はその透き通った瞳を見開いた。
「苗木誠さん、貴方はもう少し自分の価値を知った方が良いわ。十神君貴方にメロメロなのよ……
苗木が髪を切っただの、苗木の制服が衣替えだの、クレーンゲームで何を捕ってきただの付き合う前から酷かったわ。付き合ってからは言いたくもないわ」
呆れるように言う。彼女が身動ぎする度に良い香りがした。
「十神君、もう貴方のお父様に御挨拶に行ったわよ。会社に社員全員分の菓子おりと信じられないくらいの大口契約持って、貴方のお父様指名して」
「十神クン何やってるの……」
「お付き合いについて具体的には言わなかったけれど『御挨拶が遅くなって申し訳ありません、十神白夜と申します』ってあの財閥御曹司ががっちがちに緊張して。『若輩者でありますが、末永いお付き合いと御教授をお願いします』って」
「本当に十神クン何やってるの!?」
「貴方のお父様は六日間眠れなかったわ」
「お父さんんんん!」
それよりもこの人は、十神と共に苗木の家族の事情も知っている。
今の苗木には本人は知らないが、十神がかなりの数のSPをつけている。それらを出し抜く手腕。
「貴方には今から私の仲間に会ってもらうわ。抵抗しても無駄よ、十神君が来るまでおとなしくしていること」
「……ドラマみたいに、そうすれば危害は加えないって言うの?」
喉が渇いていた。苗木は運転席の女性を睨み付けながら言う。
「ちょっと恐いと思うかもしれないわ」
(もう充分恐いよ!)







苗木がなんとか気を失わなかったのは誘拐犯、霧切響子が女性だったからだろう。
連れて来られたのは、先程霧切が述べていたhotelジャバウォックの四階だった。逃げたかったが、背中に何か硬いものが当てられていて、拳銃かもしれないと思うと恐かった。(後でその硬いものを貰ったらラッピングされたバウムクーヘンの箱だった。びっくりさせてごめんねと書かれていた。)
開拓の間とやらは宴会場ホールで、立食パーティ用にいくつかの丸テーブルに料理が乗っていた。
霧切の仲間は十人を越えていて半数は女性だった。
奥のバーカウンター前でひたすらアルコールを煽っているウニ頭の人……
丸い人……
ゴスロリの人……
難いの良い土方を着たリーゼントの人が霧切と共に入ってきた苗木に気付く。
「……制服ッ、女子高生だとっ!?十神の奴犯罪じゃねーかっ!」
「ひうっ!」
大声を出されて恐い思いをした。
「希望ヶ峰の制服……懐かしい」
ひそりと、存在感無く黒髪をショートボブに切り揃えた女性が呟く。薄化粧でそばかすが見えている。
「犯罪ではないわね、苗木君が十六歳になるまで十神君待ったし」
「つかよぉ……年齢じゃなくね?」
がしがしと、頭を掻きながら赤毛の男性が苗木を不躾に視てくる。
(あれ?この人観たことあるかも……野球選手の誰か……?)
「十神の奴ロリコンだったのかよ……どおりで学生んとき誰にも靡かなかったふんぐふぉ!」

ズン!

「失礼であろう」

人間の足音って地響き伴うっけ……?
白髪の巨漢が赤毛の男性を一撃で沈めた。苗木は物凄く恐いと思った。
「ていうかさ!会ったら聞いてみたかったんだ!
苗木ちゃん!」
「……何?」
明るい笑顔で話しかける女性。この人物は知っている。オリンピックで水泳世界新記録を出した人だ。
苗木も何となく、誘拐犯グループが誰なのか解ってきた。

(希望ヶ峰学園卒業生――)

「十神の何処が良かったの?苗木ちゃんってかなり趣味アレな人?」
何処が良かったのか、とは……
「そりゃ、金持ちなとこだべ!」
ウニ頭の人がビールジョッキを持って会話に加わる。
「なんて失礼なことを言うのぉっ!びゃ、白夜様の良さはアンタみたいな百本ススキにはわからないわ!人間をゴミ扱いして下さるところとか沢山あるでしょお!」
「顔じゃないかしら?私が調べた限り苗木クンはかなりの面食いよ」
霧切もそんなことを言う。
「と、十神クン割と優しい人だよ。あと、けっこう甘えてきて可愛い……お布団入ってきてくっついてきたりとか……」
ぎゅっ、と鞄を抱き締めながら答える。相手が希望ヶ峰学園卒業生であっても、自分が誘拐されているのに変わりはない。せめてもの自営だった。
「…………」
「優しい?」
「……甘えて?」
「お布団入ってくる?」
「十神が?」
(お布団は不味かったか……)
少し頬を赤らめる苗木に、苗木も毎週観ている視聴率四十パーセントを超えるドラマの原作小説家は泡を吹いて倒れた。
「あばば……」
「だ!大丈夫ですかっっ」
「平気だべ、何時もの発作だ。しかし、お嬢ちゃんはかなり深刻な病に侵されてるべ……有り難い御札が必要だ。女子高生価格で売ってやるべ!」
「は?」

「もう。そんなに質問責めにしたら可哀想じゃないですか!」

ラ〜ラ〜ラ〜〜♪

脳内で華やかな音楽が再生される。
声を発した人物を見て苗木は警戒するのをあっさりと止めた。






バン!
「霧切ィ!」

ぜー、はーっ!
珍しく肩で息をするほど慌てている十神が宴会場の扉を体当たりして開けた。
「十神のSPを撒くな!出し抜くな!お前は峰不二子か!どういう積もりだ!」
「だって十神君、貴方こうでもしないと面倒くさがって同窓会に来ないじゃない」
貴方、峰不二子さん知っているのね、と怒る十神の剣幕に引かずに霧切は言う。
「そうだべ!十神っちが来なきゃ誰が此所の支払いしてくれるんだ?」
「幹事が物凄くお高いところを選びましたからな。拙者は全身全霊で止めましたぞ!」
「だって私、お城のようなこの内装が気に入ったのですもの」
「桑田に払わせろ!
お前等のせいで、苗木は心に癒えることのない傷を負ったんだぞ!」

「十神クンっ」

――――苗木!
十神は苗木の一糸乱れぬ無事な姿を確認する。抱き締めたかったが、苗木が両腕を前に突きだしそれを阻んだ。

「舞園さんにサイン貰ったよ!」

サインを見せてくる。十神の思い人は随分とメンタルが強かった。





「苗木君ドラマ観てくれてるんですね。嬉しいです!
応援有難うございます」
「毎週楽しみにしてます!舞園さんの役本当にぴったりだと思います」
苗木が舞園さやかに引っ付いて離れない。
「フン。あの役は初稿から、その悪女をイメージして書いたのよ……
あ、あたしはドラマのシナリオ監修もしたし……ふふふ、物語はどんどん不幸になっていくわよ」
「うわぁ、楽しみだなぁ」
「苗木君って強い子だねぇ、十神クンのこと優しいって言っちゃうもんねぇ」
不二崎がのほほんと言う。
「……甘えんぼ」
戰刃。
「私あまりにも可笑しくて腸捻転を起こすところでしたわ」
セレス。
「たとえ婚約者であっても、布団に入る際に許可を得るべきだ!書面化されているとなお良し!」
石丸。
「……どんなプレイだよ」
桑田。
元クラスメイトが喧しい。大神は結婚式のリングピローを作りたいと言ってくる。……心遣いが少し嬉しかったが気が早い。
それよりも苗木を舞園から引き剥がしたかった。舞園さやかという、察しの良い女性に十神の弱味である苗木誠を見せたくなかったし、苗木のなつき様が気に入らない。苗木がこんなにも誰かに好意を向けているのは初めてで、それが自分に向いていないのが気に食わない。山田が「百合百合しい……」と呟くのも気に入らない。
苗木は流行り物が好きだ。毎日テレビで観ている舞園に惹かれるのは理解る。
舞園もファンサービスか女学生の苗木に好かれているのが嬉しいのか、苗木の質問に逐一応えている。眼を大きく印象付けるアイメイクの仕方等を伝授している。そんな化粧をせずとも、苗木の眼は大きい。
「私は探偵なの。苗木君のホームステイの話が出たとき、十神財閥から依頼を受けて貴方の素行調査をしたのは私なのよ。十神君に何も害は無いと判断してそう報告したのだけれど……
まさか十神君の方が貴方に懸惣するなんて思わなかったの」
霧切が苗木に余計なことを吹き込んでいる。
「黙れ霧切」
「苗木君が自ら選んだことですもの、現時点では何も言わないわ。
でも十神君と別れたいときは私に言って。一番面白い形で十神財閥の裏帳簿を世間に晒して、彼を破滅させるから」
「裏帳簿など無い!」
苗木は困ったような笑顔で霧切の名刺を受け取っている。
同窓会ならば苗木は部外者だろうに。今回の集まりは巻き込まれた苗木が中心人物になっていた。
回りの面子も苗木と話したいらしい。
煩わしい。


「苗木、帰るぞ!いつまでもそいつらに構っているな」
「う、うん。皆さん、今日は御誘い頂いてありがとうございました!」
「誘いに乗るな、礼を言うな!お前は巻き込まれたんだぞ!」
明日も学校がある苗木を早めに十神は切り上げさせる。
「苗木君、今日はお話しできて嬉しいです。また会って下さいね!」
舞園がどの角度から見ても可愛らしい笑顔を見せる。
苗木はブンブンと手を振った。

(こいつは、霧切や舞園達が本当に悪人だったらどうする気だ)

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